キャリアは登るだけなのか?

登山とキャリアの共通点

私の趣味の一つに登山があります。山に登っていると、この時間はまさに人生の縮図のようだと感じることがしばしばあります。
山頂を目指しひたすらに足を進めるときは大概景色を楽しむ余裕はありません。
やっとの思い出頂にたどり着くと、ようやくその苦労に開放され、美しい景色を堪能します。
これが一般的に想像する登山の魅力かと思います。

下山の豊かさ

ただ下山の時間も捨てがたい、むしろその時間に豊かさを感じるようになりました。
振り向いて下りの道を進み始めると「思った以上に険しい道を歩いてきたんだなぁ」とか、「この高山植物はなんて名前だろう?」とか「あともう少し!頑張ってください」などとこれから山頂にアタックする登山客にと声をかける余裕などが出てきて、下山には下山の楽しみがあったりします。
実は、この感覚は人生にも当てはまるのではないかと思うのです。
私の最も尊敬する作家、五木寛之先生がある著書で「人生の下山」について語っていたことを思い出します。

五木寛之の教え

「下山する」ということは、決して登ることに比べて価値のないことではありません。一国の歴史も、時代もそうです。文化は下山の時代にこそ成熟するとは言えないでしょうか。

五木さんのこの言葉は、私の心に深く刻まれています。

ビジネスにおける成長のプレッシャー

スタートアップ企業の経営職である私の日常に置き換えてみると、成長の足を止めることは=万死を意味すると言っても過言ではありません。ビジネスの世界では、常に成長し、競争に勝ち続けなければならないというプレッシャーがあります。止まること、それすなわち敗北を意味する。なのかもしれません。このため、多くのビジネスマンは、常にさらなるいただきを目指し、「登り続けること」をずっと続けているように感じるのです。

キャリアの下山の重要性

もちろん一心不乱に駆け上がる瞬間にしか味わえない興奮や達成感があるのは事実です。
ただ勝利の美酒に酔った後には、一度立ち止まり、自分が歩んできた道を振り返る、その時間もまた違った充実感があるのだろうと。
キャリアにおける下山は、知識や経験を棚卸しし、自分に今できることを内省するタイミングとも思えます。登る過程で得た経験や知識を活かし、「あともう少し!がんばってくださいね!」と他の人々を応援することができる。
これこそが、キャリアの成熟期と言えるのではないでしょうか。

登ることの相対的な価値

また、キャリアを登っていくことで得られる価値は、経済的豊かさや社会的地位などに代表されますが、それはあくまで相対的な価値で、常に上には上がいます。一度はまったら抜け出せない蟻地獄のようなものです。

真の豊かさとは

では、真の豊かさとは何でしょうか?それは、自分が持てうる知識や経験をもって、誰の役に立つ、誰かに必要とされている実感を味わいながら生きていく。そんな生き方なのかなと思うのです。